マルチサックス奏者黒葛野敦司(つづらのあつし)さんのリーダーアルバム。ライブを観た際にはとても楽しませてもらったのですが、このアルバムもその時の印象そのままに、楽しく充実したアルバムに仕上がっています。
1曲目(Donna Lee)はご存知Charlie Parkerの有名曲。スローなテンポから徐々にスピードを増して迫ってくるバリトンサックスのベースライン。そしてハーモニー一発から怒涛のテーマへ。これを聴いただけで只者ではないことが感じられると思います。そのアドリブは堅実にして奔放。ほれぼれします。
2曲目(Tsuzulues)は底抜けに明るいブルース。ジャズというか、ジャイブ系のブルースですね。多重録音で一人サックスセッションを演奏して、エリック宮城さんらを加えてビッグコンボサウンドを出しています。楽しい!
3曲目(I Remember Tong Shang)はタイトルどおり東洋系のしっとりとしたバラード演奏。Wayne Shorterの曲にありそうな感じです。バリトンサックスで演奏される無伴奏ソロが美しいです。遠慮がちに伴奏も入りますが、ほぼバリトンの一人舞台です。
4曲目(Broom Stick)はソプラノサックスが宙を舞う、軽やかでいてハードな曲。とても難しそうな曲です。バリトンとは全く別のフレーズで音を積み重ねていきます。サウンドは8ビートに近いですが、ノリが4ビートで不思議な感じです。
5曲目(夜空ノムコウ)はスマップのヒット曲。ドラムだけを伴奏に、多重録音でサックスアンサンブルを聴かせてくれます。ただ、これがジャズか、と言えばちょっと疑問ではありますね。
6曲目(Jam Shot)は2曲めと同じビッグコンボ編成でラテンブルース。切れ味鋭いバリトンサックスのサウンドが堪能できます。途中Henry ManciniのBaby Elephant Walkが挿入されるのはご愛嬌。安定感ある演奏で長く聴いても疲れません。
7曲目(イヒラニ)はソプラノサックスとギターのデュオ。スパニッシュかアイリッシュか、哀愁あふれる美しいテーマメロディは何も考えずに浸っていたい、そんな気持ちにしてくれます。
8曲目(Dragonfly)はGerry Mulliganの佳曲。しっとりとしたボサです。バリトンサックス二本の多重録音を効果的に使った美しいテーマから徐々にサウンドが厚く熱くなっていく過程は、静かな熱気を感じさせつつも、程よいバランスで訴えたいサウンドを示してくれます。吹きまくるわけではないですが聴いて充実感を感じるいい演奏ですね。
明るい演奏です。しかし明るいだけではない、芯を感じさせてくれるアルバムです。 このアルバムのそこかしこからさまざまな音楽の要素が垣間見えます。貪欲に文化を吸収する歌謡曲的なたくましさを感じました。
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