Brad Mehldauのソロピアノアルバム。始めは少々とっつきにくいですが、慣れれば全体を一貫する美意識にしびれること間違いなしのアルバムです。 すべての曲が統一したクオリティを持っているので、アルバム一枚で一つの曲のように感じられます。
1曲目(Bard)は小品。アルバム全体の流れを決める、テーマのようなメロディです。
2曲目(Resignation)はメインのメロディはもちろんですが、「唄う」カウンターメロディが絶妙です。
3曲目(Memory's Tricks)は比較的おとなしいテーマから、複雑な、しかしよく唄う中盤への転換の流れが見事です。あまりに良くできた構成に、クラシックの曲かと錯覚しますが、本当に即興ですよね。
4曲目(Elegy For William Burroughs and Allen Ginsberg)はビート派詩人に捧げられた小曲。静かに、しかし秘めた情熱を感じさせながら流れるメロディが美しいです。ラスト付近が絶品。
5曲目(Lament For Linus)は聴くほどに幻想的な空間が周囲を支配します。細かく仕掛けられた転調やコード展開、リズムの変化に気づくたびに新しい空間が見えるような錯覚を感じます。
6曲目(Trailer Park Ghost)は熱く激しい演奏です。抑えていた感情を吐き出すように、切れ切れになりながらも唄いつづけるメロディは、しかしどこまでも美しさを失いません。
7曲目(Goodbye Storyteller(for Fred Myrow))はアルバム中最長の曲。10分の長きに亘って緊張感を持続させる体力とテクニック、歌心に圧倒されます。それにしても、途中、同時に三つくらいのメロデイが聴こえる場所がありますが、どうなっているんでしょうね。
8曲目(Ruckblick)は心の奥底に分け入っていくような沈降感のある演奏。どこまでも続く8分音符の連続が美しい。
9曲目(The Bard Returns)は冒頭のテーマに。8曲めからそのまま続き、アルバムは終了します。
いわゆる「ジャズ」を強く感じさせるわけではありませんが、Brad Mehldauの即興演奏に関する才能がひしひしと感じられる、気品ただよう逸品です。
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