モンクがサンフランシスコで残したソロ・ピアノ・アルバム。オリジナルとスタンダードをバランスよく散りばめてあります。各曲の個性よりもモンクの演奏の個性が勝っており、曲を聴く、というよりもモンクを聴く、というにふさわしいアルバムです。
映画「真夏の夜のジャズ」を思わせる1曲目(Blue Monk)は何気なくも深いブルース。早くもモンクの世界に惹きこまれます。良く覚えているつもりが、何か印象が違う。モンクの演奏にはいつもそんな発見があります。
2曲目(Ruby,My Dear)はモンクの著名なオリジナル。瞬間瞬間でさまざまに色彩が変化する、モンクの多面的な表情が垣間見えるような演奏です。エンディング、素晴らしいです。
続く3曲目(Round Lights)もモンクのオリジナルですが、こちらは即興で演奏されたブルースでしょうか。一応テーマはあるようですが、心のおもむくままに弾いた、というのがふさわしいように思えます。
4曲目(Everything Happenes To Me)はトツトツと、内気な少年の告白のような演奏です。何度も繰り返されるテーマ、微妙なリズムの揺らぎが心地よいです。
5曲目(You Took The Words Right Out Of My Heart)はスタンダード。分厚いハーモニーに彩られ、何気ないメロディを持つこの曲に、複雑なメッセージが与えられたかのようです。
6曲目(Bluehawk)は執拗に繰り返されるテーマと不規則に入るベースラインが耳に残るブルース。意外にオーソドックスなアドリブラインと何者にも替えがたいリズムとハーモニー。頭が霧に煙るような気分になります。
7曲目(Pannonica)は「Brilliant Corners」でも演奏された名曲。そのメロディを聴いているだけで幻想的な世界に酔うことができます。実際、演奏はアドリブというよりも変奏曲。この曲はこれでいいのです。
8曲目(Remember)はスタンダードですが、例えば「Soul Station/Hank Mobley」のそれとは全く違う解釈です。完全に自分のものになっています。タイトルを見なかったら「Remember」とは気づかないでしょう。これぞモンクの真骨頂。本当のジャズマンです。
9曲目(There's Danger In Your Eyes,Cherie)は語りかけるような演奏が特に顕著に表れています。ほとんど止まるんじゃないか、というリズムでスィングするさまはある種圧巻。
アルバムの末尾を飾る10曲目(Reflections)はモンクの有名なオリジナル。真摯なモンクの表情が思い浮かぶ、辛口の演奏です。
このアルバムを真夏の夜に聴いて、底知れぬ美しさを持つモンクの夢に浸るのはいかがでしょう。ソロの中では比較的聴きやすいのも魅力です。
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