Ryan KisorによるLee Morgan作品集です。日本企画もののようですが、特に色眼鏡で見る必要はなく、気持ちの良いソングブックに仕立てあがっています。 特徴として、オルガン・ギター・ドラムのトリオがバックだということが挙げられます。通常のコンボ編成とは一味違うわけで、この辺りが全体のサウンドにどう影響を与えるのか興味が出るところですが、その試みは成功したようです。
1曲目(Candy)は名盤「Candy / Lee Morgan」で演奏されたスタンダード。あれもワンホーンでしたが、Kisorは同じ条件で挑みます。ときおりMorgan本人が吹いたフレーズも織り交ぜながら、もう少し優等生なアドリブです。
2曲目(Panic Attack)は複雑なメロディラインを持つRyanのオリジナル。途中、Sam Yahelと掛け合いでアドリブが始まり、どんどん盛りあがっていきます。
3曲目(Ceora)は「Cornbread / LeeMorgan」オリジナルよりもやや早いテンポで演奏されます。やや複雑で美しいコードチェンジをこまやかな技を加えて、安定感抜群に吹ききる様は爽快です。
タイトル曲である4曲目(The Sidewinder)は、ほぼオリジナルそのままのアレンジで演奏されます。ブレイクから続くソロはギターのSam Yahelから。堅いソロです。続くRyan Kisorはブルースの枠組みの中で、奔放に唄います。8ビートにバックのオルガンが良く似合います。
5曲目(Battle City)は変拍子風の入り組んだテーマを持つRyan Kisorのオリジナル。アドリブもうねうねとしたラインですが、この人の場合最近には珍しく決してスケール一発にならず、コードのアドリブを続けるところが特徴的です。これはアルバムを通して一貫していますね。
6曲目(Speed Ball)はMorgan作曲の人気のブルース。ここでもメロディに徹したアドリブです。ここまでして飽きさせないのはさすがといえるでしょう。
7曲目(The Dream)はRyan Kisorのオリジナル。しっとりとしたジャズワルツです。さすが良い音色をしていますね。少しかすれ気味で、いい味を出しています。一休みといったところですが、よく聴くとアドリブとしてはかなり際どいメロディを吹いていますね。
8曲目(Like Someone In Love)はLee Morganがジャズ・メッセンジャーズ在団中によく演奏されたスタンダード。複雑なリフを加えて演奏されています。中身はオーソドックス。Kisorは息の長いフレーズを一気に、しかし丁寧に吹きます。
9曲目(Mr.Kenyata)はLee Morganのオリジナル。60年代風の曲ですね。クリフォード・ブラウン、リー・モーガンから続く、極めてトランペットらしい正当派のアドリブを聴かせてアルバムは終わります。
他人が愛奏した曲を演奏することで却って演奏者本人の個性が浮き彫りになる。そんなアルバムです。 ちなみに裏ジャケットはそのまま「The Sidewinder」のパロディになっています。機会があれば一度ご覧ください。
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