Blue Noteの未発表盤のCD化。1〜5曲が未発表のもので、かつてLP時代には追加で「New Soil/Jackie McLean」のボツテイクが6曲目として加えられていましたが、今回は「The Jackie McLean Quintet」がまるごと追加されて発売されました。マクリーンファンなら買って損はない、たまらないアルバムでしょう。
パーソネルとディスコグラフィを見てお分かりのように、このアルバムは「Una Mas」よりも「One Step Beyond」トニー・ウィリアムスのデビューセッションであると同時に、マイルス・ディヴィスのバンド以前のハービー・ハンコックとトニー・ウィリアムスの初共演でもあります。
突き上げるようなドラムとピアノのコンピングに煽り立てられる1曲目(Marney)は早くもハイライト。マクリーンのフレイズはハードバップ時代の面影を色濃く残していますが、明らかに変化を起こしています。初めてブルーノートに録音した頃のフレッシュな情熱が戻っているかのようです。続くドナルド・バードは奮戦といったところ。ハービーはさらなるクライマックスを演出します。
2曲め(Dusty Foot)は24小節ワンコーラスの3拍子ブルースです。ここでもドラムが強烈ですが、マクリーンは比較的穏やか。しかしサウンドは濃密な空間に埋め尽くされます。こちらはただ身をゆだねるしかありません。
3曲目(Vertigo)は「めまい」の意味を持つアルバムタイトル曲。なるほど、きりもみをしながら落下するような曲調です。マクリーンの作曲能力はこの時期から著しく進歩していますが、それを裏付けるに十分な曲ですね。 ソロに目を向けてみましょう。ビバップのフレイズ、時折見せるフリーな表情と硬質な音色というマクリーンのモード解釈の完成した姿を聴くことができます。それにしてもハービー・ハンコックとのコンビネーションが絶妙です。続くバードは少々元気がありません。少し曲についていけていない感じ。ハンコックは奔放なソロ。最高です。それにしても若さにまかせて煽るトニー、大したものです。
4曲目(Cheers)はこの時期には珍しいチャーミングな曲調。元唄が何かのスタンダードのようですね。ちょっと「Come Rain Or Come Shine」に似てますが、何でしょう。今度分析してみましょう。
5曲目(Yams)はレイジーな雰囲気を持つブルース。比較的オーソドックスです。マクリーン、バードとも比較的オーソドックスなソロですが、バックの違いによって聴こえるサウンドが新鮮なものになっています。ハービーはいつもの心憎いソロ。
6曲目以降は「The Jackie McLean Quintet」と同じですので省略します。
当時このリズムセクションを得てマクリーンは何を考えたことでしょう。次なる時代への変化でしょうか。マクリーンのオリジナルは3,4,5曲めで、それぞれファースト、ミディアム、スローというテンポになっています。トニー・ウィリアムスを得た新しいバンドの構想を練って、いろいろな曲を試していたのでしょうね。このアルバムを聴くと、マクリーンの「One Step Beyond」に対する理解も深まるような気がします。 それにしても1-5のセッションと6-11のセッションの間はわずか8箇月。恐るべき変化の早さです。
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